小6の時の親友『俺の母ちゃん、2年前に新しい親父を連れて来たんだ。で、その親父にぎゃくたいされてる』俺『・・・やり返しに行こうぜ!』→その後、母ちゃん『何をK察に迷惑かけてんだ!!』

もう15年前の話。俺が小学校6年生に進級したときの話。
6年生初日の登校日。
特にクラス替えもなく見慣れた顔触れで
「春休み短かったよな〜」とか「FFの裏ボス倒したぜ」とか
いつも通り友達と会話をしてる所で教室の扉が開き、先生が入ってきた。
「あ〜、やっぱりまたふるっち先生かよ〜」
「うるさい。大体お前らわかってただろ?うちは二年ごとに受け持つ学校なんだから」
「先生の顔見飽きた〜」
こんな何気ない会話が教室に響き渡る。
先生自身も全員去年と同じ顔ぶれなので特に気張って挨拶もすることもなく
「今年もよろしく」程度の挨拶を済ますと、だらけてた先生の顔が一瞬引き締まる。
「今日から転校生がきたんだ。いいか?みんな仲良くしてやれよ〜」
「わかってるよ〜席が一個多いもん!男?女?」
「焦るな。今、紹介する。坂倉〜入ってこい〜」
クラスみんなの視線が扉に注がれる。
横に座ってる山田花子を7〜8発蹴られたような顔したブスは「出会いの予感♪」などと
狂おしいほどにイカれた言葉を汚い顔面にある肛門から吐いたのを覚えている。
扉が開き一人の少年が下を向いたまま入ってきた。
髪が無造作というよりかは、むしろぐちゃぐちゃといった表現が近い
耳まで伸ばした黒髪に、二重でやや釣り上がり気味の目。
顔は面長で細く引き締まり、やや大人びた顔立ち。
キツネ顔のホストのような男にクラスの連中は目を奪われる。
「うわ〜♪」「きゃ〜♪」という黄色い声援というよりかは
もはやピンクに近い天井に突き抜けるような悲鳴を女子達があげ
その声を聞いただけで男子数人は既に不愉快そうな顔をしてる。
普通の転校生だったら自己紹介でオロオロ戸惑い上手にしゃべれず
緊張感を丸出しにするのだがこの坂倉は違った。
半ばふてくされ気味に「坂倉・・」と告げ
そのまま少しの間があくが二つ目の言葉は彼の口から出てこない。
先生が「趣味とか特技は?」と聞いても「別に・・」と、小さい声でつぶやく。
横に座ってるブス女は「声もかっこいい」などと鼻息を荒くし
ノ〜トを広げおもむろに「坂倉 ブス子」と書き
名字と名前のバランスを心配していた。
「席どこ?もういいでしょ先生?」
と坂倉は告げると舌うちしながら席につく。
俺はこの坂倉の態度が鼻についた。
バ力女達がイケメンとのロマンスを妄想で繰り広げるには
もってこいのオカズになりえるルックスだ。
やや悪ぶった態度がさらにメスの本能を刺激させて
脳みそをイカれさせ湿らせるには十分。
いいオカズをもらい、尻尾振って喜ぶ発情期のメス犬共。
こいつらの声援はどうでもいい。
俺はこのなめた態度にランドセルを背負わず肩掛けバッグでやってきて
どこの角度から見ても生意気なこいつをしめる!と一人意気込んでいた。
俺は当時クラスで一番喧口華が強く番長的な存在だった。
発育が早く既に身長が170センチあり、他はみんな身長は150センチ台ばかり。
まともに取っ組み合えば体格差ですべて押し切れるので俺に喧口華で勝てる奴はいなかった。
絶対に負けるはずがない。
大きな自信を持ち、6年生初登校日ということもあり午前中で授業が終わる。
帰りの会が終わり、帰ろうとする坂倉を俺は背中から捕まえた。
「おい!俺がこのクラスで番を張ってる〇〇だ。てめえ挨拶もなしか?」
今、思い返すと「番を張ってる」などと知能指数が低い言葉をかっこいいと思い込み
最高のキメ顔で言っている当時の自分を思い出すと
その事実を知るもの全てをこの世から消したくなるが
まだ6年生だから勘弁していただきたい。
なんせバイブルがろくでなしブルースだったから・・・
「・・・・・・」
「あ?返事でき・・ガブッ!!」
目を合わすよりも言葉を交わすよりも早く坂倉は俺の横顔を殴りつけた。
俺は一瞬何が起こったかわからなかった。
いきなり殴りかかってくる事など想定していなく
「あれ?なんかほっぺたいてえな?」と理解するのに数秒を要した。
しかし、頭の中で組み立て殴られた事を理解すると
「てめええ!こらあああ!」と坂倉の髪を掴んで振り回す。
この髪をつかんで振り回したのまでは覚えているが喧口華の中身はよく覚えていない。
なんとなく覚えているのは、とにかく坂倉は防御を一切せず
俺が殴った上から無理矢理殴りかかってくるという狂気じみた喧口華の仕方をしてきた。
喧口華自体は圧倒的な体格差も手伝い
俺の方が有利に進めていたと思うがあまり記憶は定かじゃない。
ただ途中から一切防御しないで何発も顔面に攻撃が入ってふらふらしてるのに
全く引かずひたすら殴りかかってくるこいつに
「もう怖いから終わりにしたい・・」と思っていたのは覚えている。
その後、誰かが教室に先生を呼びに行き喧口華を止められて終わった。
俺は職員室へ。坂倉は保健室へ連れて行かれ先生に事情聴取を受け
自分から喧口華を仕掛けたことを正直に話すと
マジでたんこぶができたほどの強烈なげんこつをもらい
「保健室行って坂倉に謝ってこい!」と、職員室を追い出された。
「謝んなきゃ・・いけねえのか・・・」
俺は謝るのが嫌だった。
自分から喧口華を売ったんだから自分の方が悪いのはわかる。
しかし最初のなめた態度やランドセルじゃなく偉そうに肩掛けバッグを持って現れ
いくら喧口華売る気で声をかけたからとはいえ
いきなり殴りかかってきた奴に謝る・・・
考えただけでも気に入らない。謝るなんて冗談じゃない。
俺はそのままランドセルを背負って玄関に向かい靴を履いて帰ることにした。
「あ〜、謝んなきゃ親に連絡くるかな〜?」
なんて内心ちょっとびびりながら靴を出していると
タッタッタと走ってくる足音が聞こえてきた。
「やばい!帰ろうとしてるのバレたか?」
と身を隠そうとしたがここは下駄箱。隠れる場所はない。
もう怒られる覚悟で足音が聞こえてくる先を見つめていると
その足音と共に視界に飛び込んできたのは坂倉だった。
「あ・・・・・・・・・」
「あ・・・・・・・・・」
お互い目が合い、空気が凍り
全ての時間が止まったような空間ができる。
なんでこいつ・・ここに・・・どうする・・謝るべきか?
頭の中ではいろいろ考えを巡らすも、なかなか良策が見出せず動けない。
水道をキチンと締めなかったのかポツポツと滴り落ちる男が聞こえる・・・
そんな静寂の中、坂倉が口を開いた。
「・・・・帰んの?」
「あ・・ああ・・・先生にお前に謝ってこいって怒られて。
 でも謝りたくねえからこのまま逃げるつもり」
「・・・・・・・・・・・・俺も」
「え?」
「・・・俺もお前にいきなり殴りかかったんだから謝ってこいって言われて・・・・」
「腹立ったから逃げて帰ろうとしたところ・・・」
「ぷっ・・・・」
「は・・ははははは」
空気が緩み、時間が動き出すのを感じた。
張り詰めていた空気は優しく溶けて俺と坂倉を優しく包みこみ
柔らかくなった日差しを浴びながら、お互い笑いが止まらなくなった。
「んだよ。お前謝れよ!」
「お前こそ謝れよ!」
「嫌だね」
「俺もごめんだね」
「んじゃ一緒に帰ろうぜ」
「似たもの同士、一緒に帰るか!」
どっちも謝らずに仲直りする経験は人生でこれが最初であり最後かもしれない。
俺は坂倉と親友になった。
俺はこの喧口華以降、ほとんどの行動を坂倉と共にした。
学校ではもちろん終わってからも毎日のように一緒に遊んだ。
ただ仲良くなればなるほど不思議な事があった。
小学校6年生ならば、たいがい門限がある。
俺の家は当時としては若干甘めで夕方の6時半だったが
いつもバイバイするときは「俺はもうちょい遊んで帰るわ」と言っていた。
いくら子供とはいえ、毎回「まだもうちょい遊んで行く」と言ってるのはおかしいと気づく。
しかし一度それについて深く聞こうとしたが
何度聞いても「遊び足りないだけ」としか返事が返ってこない。
小学6年生には心配でもそれ以上の事をしてやれない。
俺は気にはなりつつも、それ以上は触れずに時を過ごしていた。
ある日、うちの母ちゃんが坂倉を連れて来いという。
俺は小学5年生まではいろんな友達とゲームをやって遊んでいたが
6年生になり急に坂倉ばっかりと遊ぶようになり、また外にばっか行くようになって
飯食ってる時も坂倉の話ばかりしてるもんだから「坂倉に会ってみたい!」と騒ぎ出した。
「なぁ?うちの母ちゃんが会いたいって言ってんだけど遊びにこねえ?」
「え・・?お前の母ちゃんが?・・・別にいいけど・・・」
このとき、少しだけ下にうつむきため息をついた気がした・・・
こいつの表情を今でも忘れない。
何はともあれ坂倉が来ると知り菓子やらジュ〜スを用意して出迎える。
時間になって坂倉が来ると「待ってたわよ〜!」と
うちの母ちゃんは坂倉に抱きつき「か!勘弁してください!」と
顔を真っ赤にして坂倉はじたばたしていた。
その後、母ちゃんを交え3人で話してたんだが
やっぱり母ちゃんがいると坂倉としゃべりづらい。
「もういいだろ!出てってくれよ!」
と再三説得し、1時間かけてやっと俺の部屋から出て行った母ちゃん。
「悪かったな。しゃべりづらかっただろ?」
「たしかにしゃべりづらかったな。でもいい母ちゃんじゃん」
「そうなのよ。私はいい母親なの♪」
母ちゃん、屋根をつたって二階の俺の部屋の窓に張り付いてた・・・
今度は窓にカーテンを絞め完全防備状態にして俺と坂倉はタバコに火をつけた。
なんとなく悪ぶっていた俺達はタバコを普通に吸うようになっていた。
「こら!ガキャ〜!てめえらタバコ吸ってんじゃねえ!ここ開けろコラァ〜!!」
母ちゃんはカーテンを絞められて帰ったふりをしつつも
その窓の下に伏せて盗み聞きを続行していた・・・しつこいよ母ちゃん・・・・
「わ・・悪かったよ。今、開けるよ!」
ガラガラガラ・・・・
「てめえ!いつも言ってんだろ!タバコ吸うなら私の前で吸えって!」
「隠れて吸って火事とか起こしたらどうすんだ!吸いたきゃ私の前で堂々と吸え!」
うちの母ちゃんは高校時代は、それはもう漫画に出てきそうなクソヤンキーで
覚せ◯剤以外は全て経験していた。
高校時代の写真を見せてもらったがトータルテンボスのアフロに
もう一発サンダーをかましたようなバ力でかい頭に真っ赤な口紅をひき
ロンスカにぺっちゃんこのカバンを抱え「押忍」と書かれたマフラーを装着していたほどだ。
そんな母ちゃんだから俺がタバコを吸おうと酒を飲もうと文句は一切言わなかった。
ただただ言われたのは
「私の前でやれ、陰でこそこそ悪さをすると焦ってロクな結果にならない」
ってのが母ちゃんの持論で
例えば隠れてタバコ吸ってる→見つかりそうになり
焦ってどっかに投げ捨てる→火事を起こすとなったら取り返しがつかないと。
だからいつも「何かするなら私の前でやれ」が口癖だった。
今、思うとホント変わった母ちゃんだったな・・・
そんなこんなで坂倉が帰った後に
母ちゃんと坂倉の事をしゃべっていたが、母ちゃんが変な事を言い出した。
「あの子、イイ子だと思うよ。だけどなんていうのかな・・・凄い私の顔色をうかがってたわね」
「そりゃそうだろ。窓から急に怒鳴りつけて
 タバコ吸うなら私の前で吸え!って言われたら顔色も伺いたくなるって」
「そうじゃなくて・・・う〜ん・・・とにかくなんか凄い怖がってたように見えた」
「ま、勘違いならいいんだけどね〜」
母ちゃんの言ってた事は、この後的中してたことを知らされる・・・
時はもう少し進み6月。
6月には6年生で最大と言ってもいいイベントの修学旅行が控えていた。
当時特に好きな子がいたわけでもないが
「もしかしたら告白されるんじゃねえか?」とか
バ力な脳内シュミレーションを繰り返し前日はなかなか寝付けずにいた。
そして修学旅行当日。バスに揺られ、俺達は旅館に着く。
そして旅館に着くなり、いきなりハイキングに行くと教師達が言い出す。
坂倉「どうする?めんどくせえしバっくれる?」
俺 「いや、無理だろ〜絶対点呼取るし。めんどくせえけど行こうぜ〜」
女子1・2・3「坂倉君〜!」
坂倉「ん?なんか用?」
女子1「ねぇ?一緒にハイキング歩いて行っていい?」
坂倉「はぁ?やだよ。俺はコイツと行くし」
女子2「え〜、じゃあ俺くんも一緒でいいからさ〜」
俺「おいおいてめえら、なんで俺がオマケみたいになってんだよ?」
女子3「だって、あんやってさ。スポーツできるしおもしろいし悪くはないんだけど・・・顔がね〜・・・」
女子1「ちょっと!マジ言いすぎだよ〜!ぎゃはははは!」
女子2「みんなが思ってたこと言っちゃう?」
女子3「だって惜しいんだもん。顔さえ良ければ坂倉君並みなのに顔がイケてなさすぎ!」
ただしイケメンに限る!という現実は小学校時代から確実に存在していたのだ。
俺はこのジ件で深く心に傷を負った・・・俺はタヒぬほど悔しかった。
そりゃ俺だってもっとかっこよく生まれたかったし
何も好き好んでナマズみたいな顔に生まれてない。
運動も喧口華も俺の方がちょっとだが坂倉より上。
だが顔面レベルは 坂倉>>>>>>>>>>>>俺=ナマズ
ぐらいの差があり、女子人気は圧倒的に坂倉が勝っていた。俺は思った。
こ の バ カ 女 達 の 邪 魔 し て や る
ハイキングが始まり、このクソ女3人組は、いろいろと坂倉に質問を始める。
クソ女1「ねぇ?休みの日、坂倉君は何してんの?」
俺「呼吸してんだよ。当たり前だろボケが」
クソバ力女2「ねえねえ?好きな女の子のタイプは?」
俺「パソツにうんこつけない女だよな。だからお前らは無理だって」
ビチグソメス3「彼女とかつくらないの〜?」
俺「俺が坂倉ならお前らからは選ばねえよ」
物凄い低いレベルのガヤだが当時は小学6年。これで精いっぱいだった・・・・
糞×3「超うざいんだけど!あんたには聞いてないし!少し黙ってくれる?」
俺「文句あんならてめえらが消えろよ。俺は坂倉とハイキングするって決めてたんだよ!な?」
坂倉「あ・・ああ・・。ま、約束してたし文句あるならおまえらがどっか行ってくれ。悪いな」
屁×3「マジで言ってんの?ひどい〜!でも・・かっこいいから許しちゃう〜♪」
坂倉は本当にいいやつだし大好きだけど、10年以内に刹すリストに入れることにした。
そんなこんなで俺は嫉みパワー全開で糞どもの邪魔をし続け
結果的にはただでさえ薄かった人気をさらに堕落させるに飽き足らず
「坂倉君を奪い取る会」なるものが女たちの間に誕生し
同時に「1討伐隊」も編成され
あろうことか、クラスで不動の2トップと呼ばれ
片方は女ながら鼻糞ばかり食い続けるタヒ神顔の女と
いつもバッタと会話し「飛びたいんだよね。飛びたいんだよね」と
囁き続けるヤク中のような女を刺客として送り込まれ
逃げ惑ううちに坂倉とはぐれるというジ件も起きた。
ちなみにタヒ神もヤク中も特に坂倉は好きではなかったらしいが
「頼まれたから」という理由で俺を暗刹しにきたらしい。
女の団結力はこれから恐ろしい・・・
そんなこんなで修学旅行の時間が進み夜になると坂倉の様子が少しおかしくなってきた・・・
飯を食い終わったあたりから、なんか焦ってるような落ち着かないような素振りを見せている。
坂倉「・・・・あのさ・・・」
俺 「ん?どした?」
坂倉「俺さ、調子悪いから風呂やめておくわ・・」
俺 「え?マジで?どした?大丈夫か?」
坂倉「う〜ん・・ダメかも・・・とりあえず先生のとこ行って寝てくるわ」
と、告げると部屋から出ていき先生の所へと坂倉は向かっていった。
俺は心配しつつも風呂に入り帰ってきて30分ぐらいしたら
坂倉は元気な顔をして部屋に戻ってきた。
俺 「大丈夫か?」
坂倉「ああ!大丈夫だ。バファリン飲んだら速攻で良くなったわ」
  「やっぱすげえなバファリンは!」
さっきとはうってかわって急に元気になった坂倉を見て
安心し、一緒に遊び夜が更けていく・・・・
俺と坂倉はずっと起きていた。周りはみんな寝静まった深夜2時・・・
バッグに隠してきたタバコをすっと取り出す坂倉。
俺 「おまえ・・・しっかり持ってきてたんか!やるじゃん!」
坂倉「へへへ・・・まあ一服しようぜ」
窓を開けると温かい空気が入ってきた。
時期は梅雨だがこの日は空に満月が輝いていた。
満月の遥か下で少年二人が灯をあげ小さく赤い満月二つを作り、煙をあげる。
タバコが美味いと思っていたわけじゃない。
でもどこか大人に近づきたくて早く大人になりたくて
タバコに手を出していた少年二人が少し大人の階段をまたのぼる・・・
坂倉「・・・なぁ・・・早く大人になりてえよな・・」
俺 「ああ。そうだな〜堂々とタバコ吸いてえな〜」
坂倉「そうじゃなくてさ。早く働いて自分で金稼いで
   一人で生きていけるようになりたい・・って思うんだ」
正直俺には何を言っているのかわからなかった。
俺はただただ大人に憧れていただけで
一人で金稼いで生きていきたいと思ったことはないし
そんなことより夜遅くまで堂々と遊びたい!とか
バイクに乗ってみたい!とかそんな浅い大人像しか頭にはなかった。
俺 「俺はそんなこと考えたことねえな。お前大人だな〜」
坂倉「子供だよ。子供だから・・・悔しいんだよ・・」
いつしか小さく赤く輝いてた満月は
一つだけが呼吸に合わせ時に強い輝きを放ち
もう片方は消えそうな光を必タヒにとどめていた。
坂倉「俺さ・・・俺の親さ・・・親父の方が血が繋がってないんだよ」
俺は坂倉の家族の事はほとんど知らなかった。
聞いても何も教えてくれないし家にも呼んでくれない。
まああんまり言いたくないんだろうな〜くらいにしか思っていなかった。
俺 「そ・・そうなのか・・・」
坂倉「俺の親父と母ちゃんさ。俺が小さい時にリ婚してさ」
  「んで母ちゃん、2年前に新しい親父を連れてきたんだ」
  「こいつさ・・・ロクでもねえ奴でさ・・・
   母ちゃんばっかに働かせて、自分は働かねえんだ」
  「普通男が働いて女が料理したり洗濯したりするだろ?」
  「俺からするとそれがおかしくてさ・・・
   あるとき言ったんだよ。その親父に仕事しねえの?って」
俺 「・・・・・・・・・・・・・」
坂倉「そんとき、俺は胸倉つかまれて誰に物言ってんだ!クソガキ!って
   おもいっきりぶん殴られた。鼻血が出て、尋常じゃねえ痛さで泣いた」
  「泣いてるのにまだ殴りかかってくるんだ・・・
   あんまり殴られるとさ。目の前が白黒になるんだよ知ってるか?」
俺はそんな経験はない・・・・なんて言葉を返したらいいのか戸惑った・・・
戸惑いを隠せない俺を見ながら坂倉はまだ話を続けた
坂倉「俺が殴られて、泣いて、また殴られてを30分ぐらい繰り返したのかな・・」
  「最後意識がなくなったからわかんないけど・・・
   で、意識が戻ったら母ちゃんがいたんだ」
  「俺は泣きたかった。母ちゃんに助けてほしかった。
   ちょっと聞いただけでこんな目にあわす親父に怒って欲しかった」
  「母ちゃんは俺に言った。こ の バ カ!あ の 人 に 謝 れ !」
もう俺は坂倉が何を言っていたのかわからなかった。
ただ、あまりにも自分の理解できる範疇を超えた話を聞くと
体が震えて声がでなくなることをこのとき初めて知った。
坂倉「俺はその日、親父に無理やり土下座させられた。母ちゃんも土下座してた」
  「親父は「ガキの躾はしっかりするって言ったんだろうが!
   んな生意気なバ力ガキならどっかに捨てて来い!と叫んでた」
  「母ちゃんは「ごめんなさい。きちんと躾けるから許して」と泣いて謝っていた」
  「俺はもう体に力が入らなくて、何が起こってるのかわからない・・」
  「ただただ謝らさせられて、やっと許しが出て鏡を見たら
   俺の右目が完全にふさがるほど腫れて口から血を流しててびっくりした」
  「それを見て俺は余計に怖くなった。暴カを振るわれたことじゃない」
  「自分の息子がこんなひどいけがをしてるのに
   土 下 座 さ せ る 事 を 優 先 さ せ た 事 に !」
俺は・・どうすれば・・いいんだろう?
こいつを・・どうしてやればいいんだろう?
タバコを吸って大人ぶって喧口華が強いから俺は頼りになる男だ!なんて自分に酔っていた。
それが何の役にも立たないこと。自分が子供だということに気がつかされた。
話を聞いてるだけで足が震えうまく酸素を体内に運べなくなりそうになった。
恐怖で浅く早い呼吸になるのを感じ「もうやめてくれ!」と叫びたかった。
声が出れば叫んでいたんだろうか・・・?
坂倉「それまでは会話は一切しなかったオヤジ。特に暴カをふるってたわけでもなかった」
  「ただその日を境に俺は事あるごとに暴カを受けてきた・・
   俺が帰ってきたから競馬がハズれたんだ!と怒鳴られ」
  「泣きながら気をつけをさせられ殴られ続けた事もある・・・」
  「母ちゃんは・・・たすけ・・て・・くれ・・なか・・った・・」
キツメ目の少年は少し目尻を下げ、そこから一筋の滴を落とす。
その滴には・悔しさ・悲しみ・恨み・絶望さまざまな負の感情が溶けている。
どこか大人びた表情の細見の顔が中心に向かってぎゅっと凝縮され
年相応に見える子供の顔になっていた。
坂倉「・・・はは・・わりいな・・こんな話して・・・」
俺 「いや・・別にいいけど・・・」
坂倉「修学旅行明日もあるだろ?俺、風呂に入りたくねえんだ」
  「背中にさ、すげえ火傷の跡があってさ。それ見られたくねえんだ」
  「明日も入らなかったらお前心配するだろ?だからしゃべっちった。ごめんな」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・・」
言葉というのは頭で考えてしゃべっていないのだと俺はその時深く理解した。
俺はこいつにかける言葉を必タヒに探した。
「元気出せよ」「俺が力になってやる」
そんな言葉が浮かんでは消えていく。俺がどうこうしてやれる自信がない。
頭の中で浮かんでは消えていき俺の口からは何も出てこなかった・・・
人間、言葉を探すような状況じゃ会話はできない。
俺 「・・・・わりい・・・何も言えねえや・・」
坂倉「・・だよな・・何も言えねえよな・・・」
  「誰にも話したことなかったけど何も言えないのはわかってたんだ」
  「でもせっかくだ。もうちょい聞いてくれ」
そのあとも坂倉はしゃべり続けた。
逆待がひどく噂になり何度か児童相談所の人が訪れ問題になったこと。
血のつながらないオヤジが働きもせずパチ〇コに通いつめ
そこで暴れて問題沙汰を起こし近所で評判になってしまったこと。
それを母ちゃんがおびえ始め、いきなり引っ越しさせられたこと。
そして近所で噂になったときに友達の家に行くと白い目で見られ
「あなたの家、危ないんでしょ?」と心無い事を言われ
「早く帰ったら?」と半ば追い出されるよな目に何度もあったこと。
俺はそれを聞いて母ちゃんが「顔色をうかがってる気がする・・」
というのが当たってたことに気づいた。
そして俺は坂倉と初めて一緒に夜明けを迎えた。
次の日は坂倉は俺を避けるように女たちと行動していた。
俺は俺でどうしてやったらいいのか?とか先生に言うべきか?とか考えたが
坂倉自身が怖くなってしまった・・・
まだ小学6年生に受け止められるレベルの話ではなく
その話を聞いたこと自体を無かったことにしたかった。
恐怖から俺は坂倉と行動を共にできず修学旅行は終わりを迎えた・・・
修学旅行が終わり、その後、一瞬間ほど俺は坂倉と口を利かなかった。
気まずさと恐怖でどう接していいかわからなかったのだ。
ただ家に帰れば頭の中は坂倉の話で埋め尽くされろくに寝れない日が続いた。
どうしたらいいのか・・・?先生に相談すべきなのか?
いろいろと考えを巡らすが結論はでなかった。
俺は最低だと思ったが違う小学校に通ってた本田に電話して
今まで坂倉から聞いた話をそのまま伝えた。
誰かに聞いて欲しかった。俺だけじゃ抱えきれないし誰かに力になって欲しかった。
本田は幼稚園からの幼馴染で仲もよく泊まりにいったりきてたりしてたほど。
小学校4年生の時に家出を画策し夜中に抜け出してK察に補導されたり
祭りの最中に爆竹をぶっぱなして大騒ぎにさせたりと一緒にバ力をやってきた仲間。
同時に柔道を小学校4年から始め
喧口華もなかなか強く性格も豪快だったこいつに相談した。
話を聞いた本田は俺にこう伝えた。
「んじゃさ、俺とその坂倉とおまえと・・・ん〜、もう一人は俺が見つけるわ」
「相手は大人だし4人掛かりでさ。その親父をボコボコにしよう!」
俺「は・・はぁ?何言ってんだお前・・・」
本田「だってそれしかねえじゃん。助けてやりたいんだろ?」
  「そのおやじが俺たちにボコボコにされてびびったら
   もうその坂倉ってやつに手を出せないだろう?」
  「大丈夫。俺もお前も喧口華強いし坂倉ってのも強いんだろ?」
  「もう一人連れて行きゃ絶対勝てるって!なんかかっこよくね?」
俺には出ない発想だった。
普通は誰か大人に相談するべき!って思い
その大人に誰を選ぶのか四苦八苦する所だ。
だけどこいつは子供たちの力だけでなんとかしようと言ってきた。
俺は何も坂倉に声をかけてやれなかった悔しさがあった。
大人ぶってたけど何もできない子供だって思い知らされた。
でも・・ここで・・大人を打ち負かすことができたら・・・
頭の中でぐるぐると駆け巡るが答えはすぐに出た。
「よし!やろう!ぶっ刹してやろうぜ!」
俺は明確な目標が出て俄然やる気になった。
その後、子供の考えはしょせん子どもの考え。
現実は厳しくK察も出てくる大騒動になり
ひどい目にあうとも知らずに意気揚々とはしゃいでいた。
まずは坂倉を説得しなきゃならない。
ただ坂倉がこの話に乗ってくるか?正直微妙だと思っていた。
まず坂倉にとっては暴 力をふるわれようとも家族だということ。
既に逆待にあっていて親父に対して恐怖心を抱いてしまってること。
いじめられっこは仕返ししようと思っても
今まで傷つけられた経験が頭をよぎり
絶対に反抗できない精神状態になると聞いたことがある。
ただのいじめじゃない。逆待レベルのダメージを
身体以上に精神に傷つけられてるあいつが、この話に乗ってくるか?
しかし悩んでも答えはでない。
その電話をした次の日に学校に向かい
もう何も考えず坂倉に話しかけてみることにした。
俺 「・・・・よう・・・」
坂倉「・・・・おう・・・」
俺達は修学旅行以来口を聞いていない。
俺はこいつの力になりたいと思っていたが抱えきれずに逃げ出したしまっていた。
坂倉からしたら自分の弱みを晒したのに、びびって逃げた奴にうつってるはずだ。
お互いがお互いを牽制しあうような空気。
どっちも二の足が出ず膠着してた所に一人のブスが現れ空気を壊してくれた。
ブス「あ〜!おまえら元サヤに戻ったな〜!マジでゲいなんじゃないおまえら〜!」
俺 「バ力か!俺らはゲいじゃねえよ!」
坂倉「お・・おう・・でも俺はこいつのこと好きだけどな」
・・・・・言葉が出なかった。
俺はこいつを裏切った形を取ったのに
こいつは俺の事をまだ信じてくれてた事が本当に嬉しくて
ブスがいなかったら泣いてたかもしれない。
ブス「うわ〜!マジで坂倉君?マジでゲい?」
坂倉「ゲいじゃねえけどこいつは好きなの!それでいいだろ?」
俺 「俺は・・・愛してるぜww」
ブス「あ〜!きもいきもい!仲良くどうぞ!お邪魔しました!」
坂倉「ぷっ・・おまえ愛してるって・・・気持ちわりい〜!近寄んなよ!」
俺 「お・・お前の方こそ好きだとかいうなよ。おまえはモテるけど俺はモテねえんだぞ!」
小さなキッカケをくれたブス。俺は今でも感謝してる。
そのあとちょっとしゃべりながら俺はいつ作戦を言いだすか伺っていた。
実際、親を一緒に殴ろうっていうんだから普通じゃ考えられない相談だ。
しかしなかなか切り出せずにいた俺の空気を察してか坂倉から声をかけてきた。
坂倉「なぁ?何か言いたいことあんの?」
俺 「ああ・・・実はさ・・・・」
坂倉「ああ・・・」
俺 「あの・・・・さ・・・」
坂倉「なんだよ!お前気持ちわりいな〜!言いたいことあんなら早く言えよ!」
俺 「・・・・・・あのさ、お前のオヤジ・・・俺達でぶっ飛ばさねえ?」
切れ長の二重のキツネ目がまるでタヌキのように
まん丸になった。俺が言ったことをまるで理解してないことが一目でわかるリアクション。
坂倉「はぁ?何言ってんの?」
俺 「・・・落ち付いて聞けよ」
俺はそこから本田というやつに相談したこと。
勝手に人に相談したことを謝りつつ
本田ってやつが二度とお前に手を出さないように
徹底的にぶちのめそうって作戦を立ててること。
本田はどういうつもりか知らないが
俺はお前をなんとか助けてやりたいと必タヒに伝えた。
真ん丸な目をして驚いた表情を浮かべていたが
話が進むにつれて目は鋭く上向きに戻ってくる。
しかしその目線は徐々に下に降り
話終える時は俺と視線を合わせず教室の地面を見ていた・・・
坂倉「・・・・それ・・マジで言ってんの?」
俺 「ああ。マジだ。やらなきゃやられる」
坂倉「・・・お前後先考えてくれたのか・・?」
俺 「え・・・・?」
坂倉「もし作戦が成功しても俺は親父と母ちゃんと住み続けるんだぞ!」
  「どんなひどい目にあわされるかわかんねえ!
   俺は一回抵抗してオヤジをツネったことがある!そんとき何されたかわかるか!?」
  「俺はな・・俺は・・・・傘の先で・・手の平を・・・刺されたんだぞ・・・」
俺 「・・・・・・・・・・」
坂倉「そんな目にあってるのに一緒にやれって?無茶言うなよ!」
  「それに・・・成功して・・親父がおとなしくなって・・
   いじめられることがなくなっても・・・母ちゃんは・・
   きっと・・あいつの味方を・・する・・・」
徐々に声が小さくなっていく・・・
人間、言葉に力がないときは前向きな発言は出ない・・・
俺は理解しきれていなかった。
こいつは逆待そのものも辛いが自分と血がつながってる実の母が
自分を傷つけるオヤジの味方をするのを見るのが何よりもきつかったんだ・・・
俺 「・・・母ちゃん・・やっぱ好きか?」
坂倉「・・・・ああ・・・あんな母ちゃんだけど・・・」
  「親父がいなくなってから・・ずっと二人だったし・・・
   また・・一緒にさ・・どっか出かけてえよ・・」
この一瞬で様々な事が頭をよぎる。
そして出てきた答えは「やめておいたほうがいい」と出た。
男と女の事はよくわからない。
けど仮に成功した後に母親に今まで以上に辛く当られたらこいつは・・・・
俺 「・・・でも・・このままでいいのか・・?」
坂倉「・・・・・・・」
俺 「失敗するかもしれない。母ちゃんにつらく当たられるかもしれない。でも今のまんまでいいのか?」
坂倉「・・・・・・・・・・・」
俺 「俺は今のまんまじゃいけないと思う。絶対お前はきついはずだ」
  「しかも逃げるに逃げられない。だったら誰か大人に相談するか何か行動しようぜ」
  「俺らの作戦じゃなくてもいいから」
坂倉「・・・大人は・・信用できねえ・・・」
俺は修学旅行の夜に聞いていた。
児童相談所っていうのは早々簡単に引き取ってはくれないこと。
度を越し、生命の危機に達するような場合じゃない限り
1週間に1度訪問してくるぐらいで役に立たないこと。
先生は話を聞くだけで問題を持ってこられるのが迷惑というのを露骨に表情にだし
何かにつけては「話し合え」しか言ってくれなかったこと。
だから俺は本田に相談したのもあった。
俺「だったら・・・やってみようぜ!やらなきゃかわんねえよ!」
 「大丈夫だ!徹底的にやりゃ絶対うまくいく!母ちゃんは・・・目を覚ますって!」
坂倉「・・保障あんのかよ・・」
俺 「保証なんてねえよ!でもやるしかねえよ!お前がやんなきゃ意味がねえし!やろうぜ!」
俺はもう考えることをやめた。
とりあえず何かしなきゃ!それだけで自分を突き動かしてた。
子供は思慮が浅いから間違いを起こす。
今になってわかることだが当時は勢いが大事!というのもあった。
なせば成る!俺はそれだけを信じて必タヒに説得した。
地面に落としていた目線は徐々に上に登ってくる。
なんともいえない悲しいような悩んだような、そんな目だった。
目の奥では不安がみえみえで誰かが横からやめとけ!って止めて欲しそうな目。
しかし俺はもう引き返す術を知らなかった・・・
坂倉「・・・・・・・・わかった・・・やるよ・・」
12歳の少年たちは一歩踏み出すことになった。後退の一歩をたどるとは知らずに・・・
俺はすぐに本田と坂倉を合わせた。
ガキ同士にちょっとした不良気取りの二人はすぐに打ち解けた。
そして本田が細かく作戦を立てていく・・・
まず坂倉の母親は夜にスナックに勤めていて帰ってくるのは夜中の2時頃だということ。
オヤジはたいがいパチ〇コに行っているが夜11時にはほぼいることを把握。
そこから、土曜日に全員本田の家に泊まり
準備を整え深夜に抜けだし坂倉の家に出撃し
有無を言わさず襲い掛かるという流れでまとまった。
本田「でさ・・・悪いな。俺もいろいろ仲間誘ったんだけど誰も引き受けてくれなかったんだよ」
  「3人だけだけど・・まあなんとかなるだろ!」
子供3人対大人1人
俺は自信はあった。喧口華で負けたことがないし本田も坂倉も同じくらい強い。
俺らが力を合わせれば大人の一人ぐらい楽勝でぶっ倒せると信じて疑わなかった。
が・・・・
俺 「なぁ?一応さ・・・武器を持っていかね?」
坂倉「ぶ・・武器って!お前・・!それはやりすぎだろ!」
俺 「いや。絶対負けらんねえじゃん。武器使った方が絶対いいって!」
  「何も包丁なんて持っていこうって言ってるわけじゃねえ。
   バットとかそんなんさ・・・持っていってさ」
坂倉「それは絶対だめだ!何よりきたねえ!ただでさえ3対1できたねえのに!」
  「武器使うならこの話はなしだ!」
俺 「・・わかった!んじゃ武器はやめよう」
もしこのとき俺達が武器を使用していたら新聞に載っていたかもしれないと今でも思う。
作戦が決まり、俺達は一本のタバコを回し吸いした。
これは俺が提案したんだが
ろくでないブルースで四天王が敵同士一致団結の証に
タバコを回し吸いするシーンがあって俺はそれに憧れていた。
俺 「なんかさ・・・かっこよくね?俺達」
本田「かっけえかも!ぜってえいける!やれるって!」
坂倉「・・・俺もやる気出てきた!やってやろうぜ!」
精神的にも頭脳的にもまだまだ子供な彼らは無鉄砲なことに気付かない。
気付かないまま日々は過ぎていき運命の土曜日を迎える。
予定通り本田の家に集まる。
夕方の5時に集まったが、みな誰も口を開かなかった。
4日前にバ力騒ぎしていた勢いは既に冷め、
現実に行動を起こすことにみな、恐怖感を覚えていた。
しかし、少年たちは引く術を知らなかった。
一度乗りかけた船。降りることは恥と思っていた。
重苦しい空気の中、予定時刻の11時を迎える・・・
本田「よし・・・行こうぜ!」
俺・坂倉「・・・・うし!いこう!」
本田の部屋は家とは離れたプレハブであり夜中に抜け出すのは容易だった。
3人自転車にまたがり目的地へとこぎ進めていく・・・
外は夏を前に蒸し暑かった・・はずだった。
しかし緊張感に包まれ、背中には冷たい汗が
まるで生き物のように滑り落ちていくのを感じる・・・
誰もが緊張感に包まれ、心のどこかで「着かないでくれ」と思っていただろう。
しかしこぎ進めている限り目的地までの距離は縮まり
ついにアパート前に到着した・・・
本田「・・いいか・・手順通りいくぞ。俺が最初に足に飛びかかって動きを抑える」
  「そこにお前ら二人が攻撃だ。いいな!」
俺 「ああ・・大丈夫だ」
坂倉「・・・おう」
本田「1はいい。坂倉!手加減すんなよ!ひるんだらやられるからな!」
坂倉「・・・・ああ・・」
本田「よし!行くぜ!」
階段のアパートをゆっくり登り扉の前に立つ・・・
一瞬時間が止まるのを感じ、全ての物の存在が頭から消える・・
本田「おらああああああ!」
扉を開けて本田が飛びかかった!
オヤジ「な・・なんだてめえ!」
本田 「うるせえええええええ!」
親父は布団で横になりテレビを見ていた。
そこに目がけて本田が飛びかかりタックルを決め足を押えこむ!
本田「次!行け!」
しかし予定外の事がここで起こった!扉は一人通るスペースしかない!
二人でどっちが行くかお互い見合ってしまった!
オヤジ「な・・なんだなんだてめえらあああ!」
本田「早く!次こいよ!」
俺 「坂倉!いけ!」
坂倉「お・・おう!」
ここでまたミスを犯す・・・坂倉が靴を脱ぎ始めたのだ・・・
俺 「ば・・ばっか!んなことしてねえで早くいけ!
坂倉「あ・・・・」
本田「いってえええええええええ!」
足にしがみついていた本田の髪の毛を両手で掴み
思いきり引き上げてる鬼の表情の大人がいる・・・
オヤジ「ガキャアアアアア!ぶっ刹してやらああああ!」
アパート中に声が響きわたる・・・・
俺達はまたしてもミスを犯していた・・・騒げば近所に叫び声が漏れることに・・・・
俺と坂倉はもう動けなかった。
本田「いってええええ!助けてくれえ!」
本田の叫び声がこだまするが俺達は動けなかった・・・
親に怒られたことは何度もある。
大人が怖いということは知っていた・・つもりだった。
自分よりでかい人間が低い声で怒鳴ると、すくみあがるほどの恐怖を感じること。
いくら柔道をやっていたとはいえ、しょせん大人と子供では筋力の差が強すぎて
髪をつかまれひねりあげられただけで強いと思い込んでた本田が
いとも簡単に動けなくされてたこと。
俺はもう足が震えて膝が笑い逃げることすらできなかった。
草食動物は肉食動物ににらまれたら動けなくなるらしいが
身をもって体感した。恐怖の中・・体は動かない・・・
オヤジ「てめええ!たかしいいい!なんだこいつらはあああ!」
坂倉 「・・・ご・・ごめん・・・ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」
もう俺たちの戦意は喪失していた・・・作戦は失敗に終わったのだ・・・
近所の人が声を聞いて様子を見に来てK察に通報する・・・ドアは開けっぱなし。
近所の人が覗いてる中、俺達3人は正座させられ右に左に顔を蹴られ続けた・・・
痛い・・というより大人の本気の攻撃は重い・・・
一気に首から先を引きちぎられる感覚・・・
蹴られては「起き上がれええ!」と髪をつかまれ正座させられ
また右に左にと顔を蹴り倒され続けた・・・・
所の人たちはあまりの迫力にただただおびえていた・・・・
そんな中、K察が到着する。もうここらへんの記憶があまりない。
オヤジが気が狂ったように怒鳴り続け
鼻血を出していた俺達はとりあえず病院へと連れていかれた。
もう頭の中が恐怖でぐっちゃぐちゃになり何が起こってるのかわからない状況。
病院で治療を受けながら、K察も隣につき
いろいろ聞かれたが何を答えたか覚えていない。
はっきりと思いだせるのはその先のK察署から。
俺達3人は別々の部屋に連れられバラバラに調書を受けることになった。
K察というのはグループで捕まえた時は必ず別々に調書を取る。
口裏を合わせて逃げられないようにするためらしいが
実際はもっと違う所にあると思う・・・
K察「なんでこんなことをしたんだ?」
俺 「・・・・・・」
K察「たしかに黙秘権はある。ただな?黙ってるだけじゃ帰れないぞ!これはジ件なんだ!」」
俺 「・・・・・・・・・・・」
K察「・・・おまえらのやった事は暴行だ」
 「子供とはいえ3人がかりで襲いかかっていくなんて俺は今まで聞いたことがない」
俺 「・・・・・・・・・・」
俺は黙ることしかできなかった。真実を話せばもしかしたら坂倉を救ってくれるかもしれない。
ただ坂倉は引っ越す前に児童相談所から連絡が入りK察が来たことがあったらしいが
「躾だ」の一点張りの父親に対し「やりすぎないでください」の一言で済ませて
何もしてくれなかったと聞いた。俺はK察を信用してなかった。
その上これ以上あいつの事を誰かにしゃべりたくなかった。
K察「・・・おまえ・・・と、本田って言ったな」
  「おまえらが坂倉をそそのかして家から金を取ろうとしたらしいな?」
俺 「・・はぁ?何言ってんですか?」
K察「だってそうだろう。親に殴りかかって行くなんて普通じゃない」
  「おまえらがあの家に金を取り行って襲いかかった。違うか?」
俺 「・・・・馬鹿じゃないっすか?んなわけないでしょう」
K察「本田はそれを認めたって言ってたぞ」
俺 「・・・・・・・・・・・・・・」
K察「認めたらどうだ?」
俺 「・・・・・・・・・・・・」
K察「・・・・・黙ってないで何かしゃべらんか!!!!」
経験がある人はわかると思うがK察はこうやって必ず誘導尋問を仕掛けてくる。
「他の仲間の奴は事実を全部話した。だからお前も白状しろ!」と、詰め寄ってくる。
人間の心理的にいくら頑なに隠していても他の仲間がしゃべった・・・
と、なったら諦めて口を割ってしまう。
俺の場合は誘導してる方向を完全にK察が間違えていたから
不安にはならなかったが隠していたことをズバリ言い当てられて
他の奴が白状したと誘導されたら、きっとみんなしゃべってしまうだろう。
また黙秘権があるなんてK察は建前上言うが
ずっと黙っていようものなら胸倉を掴んで怒鳴り散らすくらいは平気でやってくる。
殴られたりということはなかったが胸倉つかまれ振り回されるくらいは当たり前。
意外とK察ってとこは汚いところだと俺は知った。
俺 「・・・・・あの・・・」
K察「なんだ?しゃべる気になったのか!?」
俺 「いえ。すいませんけどウソばっかやめてもらえますか?」
K察「・・・・・・・・・」
俺 「だってゴートウ目的なんて絶対ないですもん。金なんて取る気もなかった」
  「そんな計画なんか一切なかった。なのになんでウソをつくんですか?」
  「本田が言った?バ力言わないでください。
   そんな計画自体がないのに言うわけないでしょう?」
K察「・・・・・おまえらを試しただけだ・・・」
俺 「俺らには真実を吐けって騒ぐのに自分達はウソはいいんですか?」
  「素直にしゃべってくれない人にこっちがしゃべると思いますか?」
K察「黙れクソガキが!!てめえらは犯罪者なんだよ!
   大人なめてんじゃねえ!いいから全部吐けコラァ!」
また胸倉をつかまれ振り回された・・・
調書が始まって何分経っただろうか・・部屋に時計はない。
長いのか短いのか・・・何もしゃべらない俺をほおっておき
何度か部屋を行ったり来たりしはじめたK察。
何度か行ったり来たりした後にK察はずっと黙って俺の前に座っていた。俺も黙って座っていた。
空気が重い・・・・向こうも長期戦の構えなのか・・?
本当にこのまま帰してもらえなかったらどうしよう?
何か聞かれてる方がよっぽど・・楽だ・・・
沈黙というのはより一層心に不安を植え付ける。
出たり入ったりされると、このままどこかに移動させられるのか?
刑務所に入れられてしまうんじゃないか?
身長だけは高くても心も頭脳も小学6年生。
少年法すらもよくわかっていなかった少年には
不安だけが胸をよぎり頭の中でこの先訪れるであろう
最悪の事態を妄想し、震えていた・・・
「どうなるんだろう・・」
と不安もピークにさしかかろうというときガチャっと部屋の扉が開いた。
K察「こちらが母親です」
え・・・?母ちゃん・・・・?
顔を上げると、パジャマ姿で髪の毛はボサボサ。
すっぴん姿の母ちゃんが息を切らして立っていた・・・
俺はよく覚えてなかったが病院で、どうも自分の住所と電話番号を教えていたようだ。
そこから母ちゃんに連絡が入り迎えにきたらしい。
しかしそんな事情を聞かされていなかった俺には
母ちゃんが目の前に立ってた事が信じられなかった・・
と、同時に母ちゃんを見て、ずっと重力に負けず
瞳の中に閉じ込めていた涙が緩みと共に地面に向かってスルっと落ちていく・・・
俺「か・・かあち・・「このバ力息子が〜!!!」
俺は母ちゃんの飛び蹴りを顔に受けイスから後ろに転げ落ちた・・・・
母ちゃん「このバ力が!バ力が!バ力が!何をK察に迷惑かけてんだ!このガキャ〜!」
    「今、この場でお前を刹す!そして私もタヒんでやる!」
もう何がなんだかわからない・・母ちゃんは俺を助けに来てくれたんじゃないのか?
俺の救世主は倒れている俺の腹に座って
馬乗りになり顔を右に左に張り飛ばしている・・・・
な・・なぜ?救世主は助けてくれる人じゃないのか?
なぜこの人は俺への追撃を加え、どなり散らして顔にツバを飛ばすんだ・・・?
とにかく俺は有無を言わさずビンタされ続けた・・・
このとき、オヤジ襲撃ジ件後に蹴り飛ばされ続けたせいで頬が腫れていた・・・
そこへの追撃のビンタは痛みを越えて
火であぶったスプーンをくっつけられるような火傷にも似た熱さを感じた・・・
K察「お・・お母さん!落ち着いて!落ち着いてください!」
母ちゃん「本当にすみません!このバ力がご迷惑を・・・
     オラァ!立てぇ!立って頭を下げろってんだよ!」
俺「・・・ず・・ずびばせんでふた・・」
母ちゃん「バ力にしてんのか!はっきりしゃべれ!」
いや、あんたが腫れてた頬をさらに張って
また口の中が切れたからうまくしゃべれなくなったんじゃん・・・・
言い訳する隙はなくまた俺は一発頬を張られた・・・
その後、母ちゃんの勢いにK察は飲みこまれ
「とりあえずお引き取りください、もう遅いですし」
「明日の昼の三時にまた来てください・・」
と、告げられ俺はそのまま母ちゃんに渡され帰ることになった。
外に出るとK察署に一本の時計が立っており時刻は深夜2時をさしていた。
思ったより早く帰れるもんだなと思ったが
本田と坂倉はまだ帰れていなかったらしい。
本田は首謀者として実際に襲い掛かったのもあり
俺よりさらに根掘り葉掘り聞かれ続け
坂倉は実の親の襲撃という事実と体の傷から逆待の可能性.あるということ。
ただK察に暴カ親父は
「こんなジ件を起こすガキだろ?躾が厳しくなって当然!」
「こんな悪さするガキに口だけで伝わらねえだろ!親として更生しようとしてただけだ!」
と言い張り実際K察はどう扱うべきか困っていたそうだ。
俺らが何もしていなければ逆待で行けるのだが
いかんせん俺らは3人がかりで襲撃にいってるとんでもない悪ガキだ。
そんな悪ガキ達だからこそ躾が厳しくなった・・というのも
筋が通るとかなんとかで下手に動けない状態になってたとか。
本田は3時半まで残って調書を取られ
坂倉に至っては朝5時までどうするかK察に検討され
結局坂倉の母ちゃんが引き取りに来たらしい。
またあとで聞いた話だが計画的犯行だが武器を持っていなかったので
刹人になるような事態は考えにくく、ただの暴行ジ件になったこと。
そして襲撃先に実行犯の息子がいたことにより
見ず知らずの他人を襲ったわけではなく
無理矢理引きとめてまで調査するほどのジ件ではないと判断されたらしい。
このときバットを持っていってたら
きっとこうすんなりとは出てこなかっただろう。
そんな事になってるとは知らず俺は母ちゃんの車に乗った。
いつも俺は助手席に乗っていた。
しかしこの日ばかりは助手席に乗る気がしなかった。というか乗れなかった。
あそこまで怒り狂われ、馬乗りになられて張り倒された恐怖と
こんな夜中に迎えにこさせた事を申し訳なく思い
後部座席でずっと外の景色を眺めていた。
見たこともない風景が徐々に見たことのある風景に変わっていく・・・
坂倉とよく一緒に菓子を買いに行ったセブンイレブンを曲がり
車は道路をまたぐように横を向ける。
ピーピーとバックを知らせる音が鳴り音が鳴りやみ家に着いたことを知らせる。
俺はK察からここまでの間、一切口を開かなかった。
母ちゃんも俺に一切口を開かなかった。
玄関を開けて部屋に入り部屋に戻りたいが戻ってはいけない気がするし
とりあえずリビングに行きソファーに腰をかけた。
母ちゃんはそのまま台所へと消えていった・・・
「どうしよう・・謝っても許してくれないだろうな・・」
もうどうするべきかわからなかった。
謝って許されるようなものじゃないってわかってた。
家出するか・・・そんな事をうつむいて考えていたら
目の前で「カチャン!」と音が鳴った。
顔を上げるとテーブルに特大のおにぎりが二個。きっちりのりも巻いてある。
母ちゃん・・・・?
さらに顔を上へと恐る恐る上げていく・・・母ちゃんは俺と目線を合わせた・・・・
坂倉と同じく、つり目の母ちゃんの目がぐぐっと横に長く伸びた。
口角がくっとあがり、俺がよく知ってるいつもの母ちゃんの笑顔がそこにあった。
母ちゃん「よし!とりあえず腹減っただろう!食べなさい!」
俺「え・・・?俺・・腹へってないんだけど・・」
母ちゃん「男だろ!まずは食べな!」
俺「いや・・・口の中切ってて痛いし・・」
母ちゃん「あらあら、俺ちゃん。食べさせて欲しいんでちゅか〜?」
俺「ば・・バ力野郎!一人で食えるよ」
俺はいろいろと不安だったが母ちゃんの笑顔を見て、ほっとした。
胸で暴 れていた雷雲ののようなうなりが一気に消え去り
胸の中が解放され晴れ渡っていく・・・
嬉しくてちょっと泣きながらおにぎりを食べた。
一通り食べ終わると母ちゃんは笑顔のまま俺に対峙し話しかけてきた。
母ちゃん「んで。何があってバ力なまねしたんだ?」
    「母ちゃんはおまえらが坂倉君の家に行って
     お父さんに襲い掛かったとしか聞いてない」
    「理由を聞いてもおまえら全員しゃべらなくて、わからないとK察に言われた」
俺「・・・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「いつも言ってただろ?悪さするなら私の前でやれって」
    「約束守らないからこういうことになるんだ」
俺「・・・・母ちゃん・・・・」
母ちゃん「・・・なんだ?」
俺「さすがに母ちゃんを一緒にオヤジを殴りに行こうか?って誘えねえよ・・・」
母ちゃん「ぷっ!そりゃそうだ。まあいい。理由を教えてみ?」
俺「・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「母ちゃんにも黙るつもりか?」
俺「・・・・・・・・・・・・・」
俺は母ちゃんに言うべきか悩んでいた・・・
母ちゃん「お前には責任がある。私を巻き込んだのはお前だ」
    「私はお前を迎えに行った。
     すぐに解放させたくて殴りつけたけど私はお前を信じてる」
    「信じてるからこそ巻き込んだ責任として理由を教えてほしい」
俺「・・・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「心配すんな。お前がもし間違った理由で今回ジ件を起こしてたら根性たたき直してやる」
    「私はお前を見捨てない。信用しなさい。どんな理由があったってお前は私の子供だ」
    「最後まで私はお前の味方してやる。だから理由を話してみろ」
ずっと重い重い荷物を抱えてるようだった。
坂倉の逆待という荷物を抱え本田に相談したという荷物を抱え
子供だけで大人を襲撃しに行くという犯罪行為を抱え
逆襲にあい、深く体と心に大人の恐ろしさを抱え
まだまだ子供だった俺には両手いっぱいしか持てない
荷物を肩に背負わされ、足にくくりつけられ俺は身動きできなくなっていた。
どれもこれも俺にとっては大事な大事な荷物。気安く誰かに預けられない。
重い重い荷物を背負ってきたけど一番身近な人が一緒に背負ってくれると言ってくれた。
俺はこの身近な母に荷物を預けてみることにした。
俺は嬉しくて嬉しくて涙が出た。
嬉しいとこんなに涙が出てくるんだって初めて知った。
涙を流した重さの分だけ体と心が軽くなっていくのがわかった。
俺は母ちゃんにすべてを話した。
坂倉がオヤジに逆待されてたこと。実の母親に見刹し状態にされてること。
それをどうにかしたくて本田を誘い坂倉の親父を襲撃したこと。
ビビって本田を見刹しにしたこと。正座させられ蹴られ続けられたこと。
重い荷物を全部母ちゃんに預けた。
母ちゃんは何も言わずに全部聞いてくれた。
俺「・・・・ってわけで昨日捕まったんだ・・」
母ちゃん「・・・・・・・・・・・・・・・」
俺「・・・・・・母ちゃん?」
母ちゃん「・・・・お前は間違ってない!」
俺「へ?」
母ちゃん「いや〜!母ちゃん安心しちゃったよ!」
    「いくらお前がバ力息子って知ってたとはいえ人様の家を襲撃したなんて聞いた日には
     いよいよダムに車ごと沈んで心中しなきゃならないかなと本気で思ったじゃない!」
    「いや〜!命拾いしたわ〜!」
どうも母ちゃんは信用してるといいつつも俺がふざけた理由でやってたら
ダムに一緒に沈む気だったらしい・・・・
母ちゃん「しっかしまあ、ガキがいっちょ前にかっこいいことしてんじゃない!」
    「いい男に育った!母ちゃんの育て方、間違って無かったね!」
    「まったく、母ちゃんに感謝しなさいよ〜!お前は間違ってないから大丈夫!」
    「やったことは法律的にはダメかもしれないけど人間として正解!大正解!
     賞金出しちゃう!母ちゃんは認めるぞ〜!!!」
なんだ・・・そのはしゃぎっぷり・・・
まるで漫談でもしてるようなハイテンションでキャアキャア騒いで・・・・
こっちは理由はどうあれ、今も必タヒなのに・・・
母ちゃん「よ〜し!んじゃ少し寝たら一緒に行くよ!」
俺「え?どこに?」
母ちゃん「サ・カ・ク・ラ・君の家よ♪」
俺「は・・・はぁ〜〜!!!??」
少し時が進む・午前9時 本田家
本田「うっせえな〜!もういいだろ!俺、ボコボコにされたんだぜ〜!」
母「ロクなことしないガキだよあんたは!ワケを説明しなさい!」
本田「うるせえうるせえ!男にはいえない理由があんだよ!」
母「なんだとこのガキャ!何が男だ!」
プルプルプルプル・・・・プルプルプルプル・・・・
本田「おい!母ちゃん!電話だぞ!」
母「わかってるわよ!そこにいなさい!逃げるんじゃないわよ!」
 「ガチャ・・・もしもし・・・はい。あらあら〜!大変だったでしょ〜?」
 「・・そう・・そう・・そうなのよ〜!え・・・?うん・・・・
  うん・・・あら・・そうなの・・・うん!いいわよ!付き合うわ!いくいく!」
本田は母の楽しそうな声を聞いて余計にイライラしていた。
裏切られたとは思っていないが自分だけ襲い掛かり首謀犯にされ
こっぴどく怒られたことに不満を感じていた。
ただ、父と母が必要以上に怒らず、いつものノリで
少し明るく怒ってきたおかげでなんとか精神的にキレずにいられた。
そこに母なりの気遣いを感じたが自分が悩んでる事をつゆ知らず
どこかに遊びに行くと楽しそうにしゃべってる母が本田の脳内を余計に沸騰させていた。
「今日はどっかで家を抜け出そう。そして1の家に行こう。謝ってもらわないと気が済まねえ」
ささいな母の電話が彼の機嫌を余計に捻じ曲げる・・
彼はそんな事を企みながら時間を過ごしていた。
時がまた戻る 午前5時半 俺の家
俺「は・・・はぁ〜?」
母ちゃん「だって聞いちゃった以上しょうがないでしょ〜
     あんた坂倉君を助けてあげたいんでしょ?」
俺「当たり前だろ!」
母ちゃん「・・・・お前はよくやったよホント」
母の顔はさらに優しくなった。
さっきまでも優しかった。にこやかで見ている人を幸せにさせるような明るい笑顔だった母。
しかしその微笑みは明るさをやや薄くし代わりに目と頬にさらなる柔らかさと温かさを与え
子供を愛しむ母親の表情になった。
俺「ほ・・本田〜!?お前、大丈夫だったか?」
本田「大丈夫じゃねえよ!お前、ビビりやがったから
   俺が主犯だ!とか言われてものすげえK察に怒られたんだぞ!」
俺「・・・・ホント悪かった・・・・お前は作戦通りに行ったのに・・・・」
 「俺、ビビっちまって・・・・ごめん・・・・」
本田「・・・んだよ。んなマジに謝られるとさ。許すしかねえじゃん
   それに俺もビビったし・・怖かったな・・・あのオヤジ・・・」
俺「ああ・・・・怖かった・・・」
目をつぶればすぐに思い出せる・・大人の腕力。
どうあがいても離せない握力。圧倒的な威圧感。
あがくことさえできずひたすら蹴られてたあの時間・・思い出すだけで震えが出てきた。
本田母「ったく悪ガキ気取ってるくせに弱っちいんだからバ力タレ共は」
   「男なんだからしっかりしろまったく」
母ちゃんは自信満々だった。俺は不安だった。
正直、今の俺でも母ちゃんを組み伏せるくらいわけないと思っていた。
実際腕相撲しても握力を測っても足の速さもすべて俺の方が上になっていた。
本当に勝てるんだろうか・・・
不安になりつつも心身ともに疲れ果てていて、すぐに眠りへと落ちて行った・・・・
目を開けると既に朝10時半をさしていた。まだまだ寝足りない感じ。
しかし腹が減り俺は部屋を出て階段を降りリビングへと降りて行った。
リビングに入ると異様な光景が目に飛び込んできた・・・。
そこには本田がソファーでくつろぎコーラを飲んで漫画を読んでいた。
母ちゃん「母ちゃんは嬉しい。自慢の息子だ。だから後は母ちゃんに任せておきな」
    「こっからは大人の役目。あんたらは守ってやるから安心しなさい」
    「お前は坂倉君が好きなんだろ?」
俺「ああ・・・」
母ちゃん「じゃあ母ちゃんも坂倉君が大好きだ。だから力を貸してやる。任せてくれるな?」
俺「・・・・・うん・・・・でも・・向こうの親父・・・危ないぜ?大丈夫なの?」
その言葉を聞いて母ちゃんがニヤっと笑った。
母ちゃん「馬鹿だねあんた。女は男に勝てないと思ってんだろ〜?」
俺「そりゃ男の方が力が強いし背も高いし強いだろ!」
母ちゃん「かぁ〜!バ力だねあんたは。女の方がね絶対強いんだよ!」
    「なんで母ちゃん見てて女の方が強いって気づかないかな〜?
     ま、見てなさい・・・ふふふ・・・」
俺「あれ・・・?あばさん・・?一緒にきたの?」
母ちゃん「そうなのよ♪電話で誘っちゃった」
    「やっぱ一人でいくより二人がいいでしょ?本田母が一緒の方が心強いし♪」
本田母「まったくめんどくさい事持ってきて」
   「ま、その坂倉君って子、かわいそうだ。助けてあげなきゃいけないでしょ。」
前に書いたと思うが俺と本田は幼馴染。
と、いうのも本田の母ちゃんと俺の母ちゃんは高校時代同級生のクソヤンキー仲間で
年がら年中うちにきたり本田の家にいって酒を飲んでる間柄。
だからしょっちゅう泊まりにいったりきたりしてたのだ。
本田「びっくりしたぜ。俺、どっかで抜け出してここにきて
   お前に謝ってもらうつもりでいたら
   いきなりおまえの家に行くぞって言って連れてこられたんだから」
俺「いや、俺も驚いたって・・・・」
本田母「さて、3時にはあんたらK察行かなきゃいけないんでしょ?」
俺「うん」
母ちゃん「じゃあ行こうか。今なら坂倉君のお父さんもお母さんもいるでしょ」
    「話しつけるにはちょうどいいわ!じゃああんた」
俺「なに?」
母ちゃん「フライパン持っておいで」
俺「は・・はぁ?なんで?」
母ちゃん「主婦がたまたまフライパン持って行くのは普通でしょ?」
本田「いや、おばさん・・・普通じゃないと思う・・・」
本田母「男のくせにこまごまとうるさいねあんたらは。いいから持ってくりゃいいのよ!」
俺「もしかして・・・武器?」
母ちゃん「いいじゃない。こっちは女なのよ。私も本田母もくたびれて女の武器は使えないもの」
    「だったらフライパンぐらいいいじゃない♪」
本田母「私達は持たないわよ。えっと・・あんたが持ちなさい」
   「で、いい?もし襲われた時はフライパンで・・・」
俺「殴れ・・・と?」
本田母「そう。だけど気をつけてね。フライパンの面で殴ったら
    面積が大きすぎてあんまり効かないのよ。だから・・・こう」
(フライパンを90度横に向けて縦にし脇の部分から垂直に落として見せる)」
俺「・・・・・マジで?」
本田母「旦那がへそくり握ってパチ〇コで負けてきた時にかましたら
    頭を押さえたままヘッドバンキングしてたわ♪
    効くわよ〜襲われたらためらわずいきなさい」
本田「1・・・それマジだ・・・父ちゃん1時間ぐらい動けなかった・・」
できるなら・・・使わないで済んで欲しい・・・・
俺の家から坂倉の家までは歩いて10分くらい。なので4人で歩いて行く。
母ちゃんとホンダ母はケラケラと笑いながら歩いている。
「あっついわね〜お肌によくないね」
「もう年だし、お手入れ欠かすと即響くもんね」
なんて、どっかに買い物に行くような顔してズンズンと突き進んでいく。
俺と本田は、一度逆待オヤジの恐怖を味わっている。
二人とも口には出さないが怖かった。怖かったんだが・・・
あまりにも普通な母親の背中を見てたら、なんか行ける気がしてくるから不思議だ。
俺「・・・なんか母ちゃんとおばさん・・・すげえな・・怖くねえのかな?」
本田「なぁ・・・なんであんな平気な顔してるんだろ?大人になったらああなれんのかな?」
俺らは不思議な感覚と奇妙な安堵感を抱えながら母親の背中を追いかけていった。
アパートにつく。俺と本田はぐっと緊張感が高まる。
しかし母ちゃん二人は世間話をしたまま二階へと上って行く・・・・
俺「・・・あ・・あの二人・・・作戦会議とかしねえのかな・・?普通に上って行ってるけど・・・」
本田「わ・・・わかんねえ・けど・・行こう。なんとか・・なるんじゃねえかな?」
あまりに大きくうつる母親の背中。
女は強い!もとい母親は強い!と印象付けられる背中を今も覚えている・・・
扉の前に立つと俺の母ちゃんは即座にノックする。
母ちゃん「坂倉さ〜ん?〇〇の母ですけどいらっしゃいますか〜?」
一瞬で緊張が走る・・・・中には・・中には・・あのオヤジはいるのか・・・?
オヤジ「なに〜!?〇〇の母だ〜!そこで待ってろ!」
部屋の中から、もはやバ力なんじゃないか?と思うくらいでかい声でオヤジが叫んだ。
あの空気を震わせ地面を揺らすような低音のどなり声・・・聞いただけで足が・・・
本田母「大丈夫だよおまえら。あたしらがいるから」
子供は父親より母親の方が接する時間が圧倒的に長い。
潜在的にどこかで母親を信用しきってるところがあるのだろうか?
本田母は他人の母親だけどその一言で震えそうな足がピタっと止まった。
ガチャ・・・・
母ちゃん「どうも先日はうちのバ力息子がご迷惑をかけて申し訳ございません」
オヤジ「てめえが母親か〜!てめえはガキにどんな躾をしてんだコラァ!」
母ちゃん「返す言葉がございません。きちんとお詫びはさせて頂きたいと思います」
    「俺!本田!おいで!」
え・・・謝るの・・・?俺達聞いてない・・・
俺たちを・・坂倉を助けてくれるんじゃなかったの?
なんで・・謝るんだ・・?母ちゃん・・・?
母ちゃん「ほら!おまえらは悪い事をしたんだ!きちんと謝りなさい!」
俺・本田「す・・すいませんでした・・」
オヤジ「すいませんじゃねえだろガキャ〜!謝ってすむ問題か!てめえらはな!犯罪者なんだぞ!」
く・・・このクソオヤジ・・・・
なんで・・こんなに偉そうにされなきゃいけねえんだ・・・
俺がやってきたことは・・正解だって言ってたじゃねえか・・・
なのに・・・なんで・・・なんで・・・
母ちゃん「よし。おまえらはきっちり謝罪した。
     ではオヤジさん。うちの子と本田に謝ってもらえますか?」
オヤジ「は・・?バ力か!?なんで俺が謝るんだよ!」
母ちゃん「あんた子供を本気で蹴り飛ばしたらしいですね?」
    「男として最低だす。子供に暴カ振るうなんて。
     人間として最低だから謝れって言ってるんです!」
オヤジ「あああああああんんん?てめえこらババア!誰に向かって口利いてんだコラァアアアア!」
母ちゃん「大声を出さないでもらえますか?」
オヤジ「てめえらああああ!なめてるとぶっころ
母ちゃん「お願いですから静かに!迷惑です!」
オヤジ「なんでてめえらに指示されなきゃいけねえんだ〜!引きずりまわすぞコラアアアアアア!」
母ちゃん「わかりました・・・では・・・」
母ちゃんの頭は徐々に下へと降りて行く・・・
え・・・?母ちゃん・・・どうした・・・・
やっぱ・・男には勝てないの?ビビって謝っちゃうの?
俺は・・さっきまで強気でかっこよかった母ちゃんしか・・見たくない!
俺のの母親は頭を男のお腹あたりまでぐぐっと下げる。
そこから手がさらに下へと伸びていく・・・
地面に何か落とした物を拾うのかと思うほど
下に急降下した腕が再び上昇気流に乗り上昇していく。
手の形はパー。指と指の間から抜ける空気・・・
空気を切り裂きながらさらに加速を開始し男の男たるシンボルの下へと迫っていく・・・
男は母の頭しか見ていない。予測は一切できていない。
急接近した手のひらの存在に気付かない男は腕組みをし仁王立ちしている。
その刹那、空気を切り裂きながら上昇してきた手のひらが男のアソコを強烈にすくいあげる。
母親の手のひらに手ごたえがあったかどうかはわからない。
男の袋はそれほど軽く、しかし確実にダメージを受ける部位。
感触が伝わらぬほどの速度ですくいあげた腕は
さらなる上昇を続け、男のアゴの手前でようやく停止した。
その美しいまでのフォロースルーの長さが
いかに腕と手首に力を込め一切の妥協のない乾坤一擲に値する一撃だったかを物語る。
母親は髪をなびかせ、静かに微笑んだ・・・・
もしこのシーンをグラップラーバキの作者、板垣氏が見ていたらどう描いただろうか?
私はきっとこの母親の背なには鬼の筋肉を浮かび上がらせて描いたと予測する。
それほどの説得力と力強さが加わった一撃だった。
「ケコオォォォ!!!」
カエルに似た叫び声を男が上げる。
その母親が放った乾坤一擲は腰から背中を通り脳天まで響き渡り
あまりに重い一撃に呼吸器官が麻痺し声ができらず息が抜けてしまい
カエルのような叫び声になったと予測できる。
膝が崩れ地面に両膝をつき組んでいた腕は両方アソコへとシフトする。
それを目撃していた俺と本田も、そのあまりの説得力ある打撃を目撃し
わが身に受けたと錯覚し同時にアソコに手をやってしまったのも必然と言える。
(ふざけた表現ですまん。この玉打ちだけは表現遊びたかったんだ・・・)
母ちゃん「だから言ったでしょ?大声を出さないでって」
オヤジ「フホーー!フホーー!ケコオオーー!」
母ちゃん「そう、やればできるじゃない♪おとなしく話し合いましょう。ね?」
オヤジ「フホーー!フホーー!フホーー!」
まるで会話になっていない・・・おそらくオヤジの意識はどこか遠くへ飛んでいることだろう・・・
俺はオヤジに蹴られた恨みを持っていたが
この一撃だけで気分は晴れ、同時に同情を覚えた・・・
母ちゃん「んじゃ上がらせてもらいま〜す。はい、あんたらも上がっちゃって〜♪」
母ちゃんはカエルのようなうめき声をあげ
カエルのように潰れているオヤジの髪を引きずりながら部屋の中へと入って行った・・・
母ちゃんに続いて俺も部屋へと入って行く・・・俺は部屋へあがって驚愕した・・・
部屋は3人で住んでるだけあり6畳が二間ある12畳のアパートだった。
玄関から入った部屋は恐らくダイニングキッチンなんだろうが
部屋中に雑誌と新聞とゴミが散らばりゴミの上にゴミが乗ってるような状況。
台所だけは料理をするためかキレイに片づけてあったが他の場所は散々だった・・・
本田母「あらまあ・・きったないわね〜」
それ意外に表現しようがないほどの汚い部屋・・
その奥に扉があり、俺はその扉を開ける・・・・
そこには・・・坂倉が・・坂倉がいた!
しかし坂倉は壁の方に顔を向け、さらに目隠しをされ気をつけをさせられていた。
それを母親は何も気にせずいたのだろう。
寝そべったままの恰好で入ってきた俺たちに目を向けキョトンとした顔をしていた。
テレビはついていた。子供をこんな状況にして平気な顔をしてテレビを見ていたのか・・・・
俺があっけに取られていると本田母が続いて入ってくる・・・
坂倉母「な・・なによあんたたち!」
坂倉母は俺たちを問いただすが本田母は表情一つ変えず坂倉母に近づき
寝そべって下にあった顔をつま先でけり上げる・・・
「ぷるあぁ!」と聞いたこともない叫び声が響くと
即座に馬乗りになり本田母は静かにしゃべった。
本田母「大声あげたら鼻を折る。それでも叫んだら首を絞める。わかったな?」
いきなりの事でパニック気味だった坂倉母だったが
その圧倒的な迫力で声もあげられない様子だった。
首を激しく上下に振り、理解したというジェスチャーを繰り返す。
俺達が昨日、何もできなかったオヤジを一撃で沈め
あっという間にこの家を占領してしまった。
俺と本田は顔を見合わせた・・・
俺・本田「すげえ・・・」
しかしいつまでも感動してはいられない。
すぐに俺と本田は坂倉の目隠しを取り「もう大丈夫だ!」と声をかける。
坂倉がこちらに振り返ると目をパチクリさせていた。
音は聞こえていたはずだと思うが
目の前にある現実をなかなか受け止められなかったんだろう。
俺「大丈夫だ。もう大丈夫だ」
何か声をかけなきゃ!と出てきた言葉は「大丈夫だ」
これしかなかったが俺が伝えたかった事は無事に伝わり端正な顔を崩して泣き崩れた坂倉・・・
相当・・・きつかったんだろうな・・・
母ちゃん「さて、オヤジさん。話できるかな?」
オヤジ「フホーーー!フホーーー!」
母ちゃん「無理だったら返事してください〜?」
オヤジ「フホーー!フホーー!」
おい・・病院連れて行った方がいいんじゃねえか?
渡っちゃいけない河を渡り切りそうだけど・・・?
母ちゃん「こりゃダメだ。じゃあ奥さん、お話できるかな?」
坂倉母「・・・・な・・なんですか?」
母ちゃん「あんた。なんで自分の子供を守らないの?」
坂倉母「か・・関係ないじゃないですか!私の子供をどうしようと関係な・・
母ちゃん「子供はてめえのおもちゃじゃねえ!!!」
母ちゃんの声が天井と地面にぶつかってあちこちにはねまわる。
それほど響き渡った声に母ちゃん以外の誰もが身震いした・・・
母ちゃん「てめえみたいなバ力が母親?ふざけんな!私の子供?口を引き裂かれてえのか!」
    「てめえはこの子に何をしてやった?てめえはこの子に何をしてきた!?答えてみろ!!!!」
坂倉母「・・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「なんとかいえコラ!てめえみたいな奴が大嫌いなんだよ!」
    「てめえはこの子を産む時に一生育てる覚悟をしたんじゃねえのか?
     大きくなるまで一生守るって決めたんじゃねえのか?」
坂倉母「・・・・・・・・」
母ちゃん「私はな、子供が生まれた時は何があっても守るって決めた。覚悟を決めた」
    「母親ってのはそういうもんだろ?腹痛めて必タヒこいて産んで誰もが覚悟を決めるはずだ」
    「てめえは決めなかったのか!?」
坂倉母「・・・・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「中途半端な覚悟で産んでんじゃねえクソ野郎!みんな覚悟を決めて母親になってるのに!」
    「クソみたいな覚悟で「私の子」なんて言うんじゃねえ!
     この子はてめえの子なんかじゃねえ!てめえみたいな奴は母親として認めねえ!」
坂倉母「・・・・・・・・・・・・・・」
母ちゃんはそれを言うとすくっと立ち上がった。扉から出ていく母ちゃん。
皆が固まる中、数秒後に手に何かを持って帰ってきた。
それは包丁だった・・・
母ちゃんは包丁を坂倉母が座るテーブルに突き刺す!
坂倉母「ひいいいい!」
母ちゃん「てめえ・・・タヒねよ。今すぐここで。この包丁で自分でノドを突いてタヒね!!」
背筋が凍りついた・・・・本田母でさえも表情はやや曇っていた。
本田はくちをあんぐりあけて腰を抜かしていた。
や・・やばい・・さすがにこれはやばすぎる・・・
母ちゃん・・・刹すつもりだ・・・・間接的に・・自刹に追い込むつもりだ・・・・
とと・・ととと・・・止めなきゃ!止めなきゃやばい!
しかし足が動かない・・・自分の母ちゃんなのに・・・こええ・・・
坂倉母「あ・・・あ・・・・あ・・・・が・・・」
オヤジ「フホーーーー!フホーーーー!」
オヤジも坂倉母もどっちも言葉を失っている・・・だ・・誰か・・誰か止めてくれ・・!!
本田母「はいはい。ちょっとやりすぎよ。さすがに自刹を迫ったら犯罪よ」
母ちゃん「・・・・・・・・・」
本田母「あんたやりすぎ。怒るのはいいけど刹すのはダメ。
    自刹を迫るのもダメ。熱くなりすぎだから」
母ちゃん「・・・・・・・ごめん」
本田母「ただね・・・あんたの気持ちはよ〜くわかる。おい!てめえ!」
坂倉母「ひっ!!!」
本田母「てめえは男にすがって生きたいのか?」
   「働かないくそ男でも相手してくれるのが嬉しくて一生男にすり寄って生きていくのか?」
坂倉母「・・・・・・・・・・・」
本田母「お前はわかってんのか。この子にはな、お前しかいねえんだよ」
   「この子が世の中で唯一頼れるのがお前しかいねえんだよ。
    お前しかこの子を甘やかせてあげられねえんだよ!!」
坂倉母「・・・・・・・・・・・・」
本田母「この子たちはまだ小学6年生だ」
   「うちの子もバ力で成績悪くて口を開けば生意気言って
    腹も立つけどまだ子供だ。まだまだ甘えたい子供なんだ」
坂倉母「・・・・・・・・・・」
本田母「特にお前は片親だろう?この子がかわいくないのか?」
   「私はバ力でろくに勉強もできない子供だけど、かわいくて仕方ないね」
   「目に入れても痛くない。馬鹿だけどね。
    で、あんたにはこんな目にあわされても家に帰ってくる・・」
   「一途に母親を慕ってくる子がかわいくないのか?」
    「この子はあんたを信じてこんな目にあっても我慢してるのに
    その気持ちをなんでわかってやんないんだ!?」
坂倉母「・・・・・・・・・・・・・」
母ちゃん「とにかく、私達はてめえらみたいな奴らは絶対許せねえ」
    「いいな?今後この子にちょっとでも暴 力振るってみろ!私が刹しにきてやる!!」
板倉母「・・・・・すいませんでした」
やっと坂倉母が口を開いた。
坂倉母「・・・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・」
坂倉「母ちゃん・・・・・・・」
オヤジ「フホーー!フホーーー!」
坂倉母が泣き崩れひたすら坂倉に謝る。
坂倉はずっと忘れていたであろう母親の感触をたしかめ胸に顔をうずめ泣いていた。
初めて見る坂倉の嬉しそうな、そして安堵しきった子供の顔だった。
こいつの嬉しそうな顔は何度か見たことあるが
安堵しきった子供っぽい笑顔は初めてだった。
その坂倉を見つめる坂倉母の顔もまた優しかった。
本田母「なんとか元に戻るといいわね〜」
母ちゃん「戻らなきゃ刹すまでよ」
母ちゃんは笑いながら言ってた。
坂倉父はあの乾坤一擲を受けてから既に20分が経とうというのに
いまだに呼吸困難を起こしヨダレを垂らしていた。
本田母「ねぇ・・・?あのさ・・・このオヤジ・・・ちょっとやばいんじゃ・・・?」
母ちゃん「だ〜いじょ〜ぶよ♪たぶんだけど」
本田母「だって・・普通じゃないわよ?これ・・?」
母ちゃん「知らないわよ。自分が悪いんでしょ?顔に書いてあったもん「女のくせに」って」
    「バ力だね〜。女の方が強いに決まってるのにさ」
俺「・・ねぇ?なんで女の方が強いの・・?」
母ちゃん「あんたまだ言ってんの?わかんないの?女の方が男より一個弱点が少ないからよ」
俺「・・・・・へ?」
母ちゃん「んで聞くところによると男同志の喧口華って、あしたその弱点の玉狙わないんでしょう?」
言われてみれば・・たしかにそうだ。喧口華はルールがない。
だけど喧口華で玉を狙うことはまずなかった。
喧口華相手も狙ってこなかった。金的は卑怯っていう気持ち。
プラス例えば間違えてちょっと強めに玉に手を置いただけで
ケツから腰に重苦しく一瞬で冷や汗をかくダメージがあるのを知ってるだけに
そこにパンチやキックを入れるのは痛みに対する同情があるんじゃないだろうか・・・?
あの痛みを知ってるからこそ攻撃できない・・・
っていう気持ちから攻撃できない・・気がする。
母ちゃん「女はね、その痛みを知らないから、ただの喧口華でも玉に全力で攻撃できるのよ」
    「だから女の方が男より強いのよ!わかった?」
俺はちょっと納得したのと同時にヤンキー女との喧口華だけはやめておこうと心に決めた。
女は怖い・・・母ちゃんと本田の母ちゃんの迫力。
それに子供に対する責任を見て怖いし勝てねえやって思い知らされ
フライパンを眺めながら「使う時がこなくてよかった」と安堵しこの騒動に終止符を打った。
〜後日談〜
あのあと、オヤジはなんと睾丸損傷で内部出血を起こしていた。
30分経っても一向に動かないオヤジにさすがに心配し
タクシーに乗せて病院にいったら出血していたことが発覚した。
病院の先生に「バイクで転んでアソコを打ったレベルの衝撃ですよ!!」と言われ
俺と本田はアソコを思わずおさえ嫌な汗を流した。
俺の母ちゃんは次の日にPTAと児童相談所。そして学校にも乗り込んでいき
「きちんと子供の事ができねえならやめちまえ!今後絶対坂倉君から目を離すんじゃねえ!」
と怒鳴りこみにいき次に近所の小学生を子供に持つ母親の家を尋ねまくり
児童相談所とは別に一週間毎日2回。誰かが見回りに行くチームを編成した。
母ちゃん曰く「週に1回くらいしか行かない児童相談所なんぞあてにならん!」と言っていた。
もちろん言うだけじゃなく母ちゃんは、その当番を週4日勤めリーダーシップを発揮。
「そういうめんどくさいのは・・」と嫌がる母親には
「てめえんとこの子供だけ良けりゃいいなんて思ってるのは認めねえ!」
とかなんとか文句を言いまくり、嫌々ながらも承知させてた。
15年前だからまだ周りは専業主婦ばっかでよかったが
今はほとんどが共働きの時代だから無理だろうな〜。
坂倉と坂倉母はすぐに仲直りとはいかなかったようだ。
やっぱり2年ほど壁が存在し続けたから、なかなかどう甘えていいのかわからず
また甘えさせ方もわからず難航したが
半年もしたらどこにでもいる普通の親子になっていた。
クソ暴カ親父が玉が回復したら帰ってきたが毎日代わる代わる人がやってきて
子供のチェックをされて手は一切出せなくなり
母ちゃんが行くと露骨に嫌な顔をして引きこもってたらしい。
そんな毎日が続く中、母ちゃんに昼間引きずりまわされ続けた
坂倉母はだんだん普通の感覚を取り戻して行っていた。
自由にならず毎日いろんな人が白い目でオヤジを怪しみ
怒りがたまるもパチ〇コで目撃されれば近所の人に怒られストレス発散の場もなくし
また坂倉母が正気に戻ってきてお金をくれなくなり「仕事をしてください」と
毎日迫り続け、しまいにはジ件から1年後どこかに蒸発していってしまった。
こいつだけは根っからのクソだったようだ・・・
そのころには先ほども書いたように坂倉母もまともな感性に戻っており
何も悲しむこともなく受け止め15年経過した今でも坂倉達はいい親子やってます。
俺の母ちゃんがすいぞう癌にかかりタヒんでちょうど3か月。
49日も済んで全て落ちつき母ちゃんのタヒを受け止められるようになったし
おまえらに俺の母ちゃんの自慢話を聞かせたくてスレを立てました。